男水
★祝・ラジオドラマ化、月齢夫婦の続き
★4人
★10分くらい
★あらすじ:懐かしい友達に喫茶店に呼び出された良平、しかし怪しい水を勧められて・・・
【登場人物】
良平 サラリーマン、妊娠中の嫁がいる
誠 サラリーマン、独身、
樹(いつき)喫茶店の客
ウエイトレス
本編スタート
平日のお昼時、喫茶店のテーブル席に一人、誠が座っている。
入口のドアの一瞥したり、スマホで時間の確認をしている。
隣のテーブルには、客に背を向けて座る女性らしき客がいる
良平、登場。
良平 :よう
誠 :あぁ
良平 :久しぶり、元気してたか?
誠 :まぁ、元気かな。
良平 :なんだ、話って。
誠 :あぁ。
ウエイトレス:お待たせしました、カモミールティです。
誠 :あ、はい
ウエイトレス:ご注文はお決まりでしたか?
良平 :ああ、結構です。時間ないんで。
ウエイトレス:え?・・・あ、はい・・・。
ウエイトレス、一旦退場。
良平 :・・・で、何?
誠 :え?
良平 :話って、
誠 :あぁ、
良平 :俺、昼休み抜けてきたからさ、時間ないんだ。
誠 :そうか
良平 :うん
誠 :・・・楽しかったな、タケの結婚式
良平 :ああ
誠 :ほら、覚えているか?あいつ二次会で、「世界一かわいいお嫁さんをもらった僕は世界一幸せ者です」って言ってたの。
良平 :ああ
誠 :あの時俺、こっそりムービー撮っておいたからさ、今度、タケに見せてやろうと思って
良平 :そう。
誠 :まぁ・・・あれだよ。俺、思うんだ。
良平 :え?
誠 :タケは、今でも世界一の幸せものだと思ってるのかなって
良平 :うん。
誠 :今でも奥さんを世界一可愛いと思えてるのかなって、
良平 :どうだろねぇ。
誠 :やっぱり、結婚っていうのはさ、式を挙げるまでが幸せのピークなんだよ。あとはお互い生活に追われて、すり減っていくもんだと思うんだ。
良平 :おい、これから結婚する奴が言うセリフか。
誠 :ああ、そうか。
良平 :なあ、ちょっと、ごめん。
誠 :え?
良平 :わりぃけど、俺、時間なくてさ、用件を話してほしいんだけど。
誠 :あぁ、そうだったな。
良平 :うん
誠 :あの・・・(溜息)
良平 :どうしたんだよ?
誠 :破談になったんだ。
良平 :・・・え?
誠 :結婚、破談になった。
良平 :破談って・・・まじか
誠 :まじ
良平 :え、だってお前、こないだ結婚式の招待状届いたけど。
誠 :式の招待状全員に郵送した後、彼女が「この結婚、なしにしたい」って言いだしてさ。
良平 :何だよそれ・・・。
誠 :こんな事ってあるんだな。
良平 :ひど過ぎるだろ・・・。
誠 :俺もふがいない男だし、しょうがねぇよ。
良平 :そんな事ねぇよ・・・
誠 :でもね、俺はむしろこうなって良かったと思ってるんだ。
良平 :え?
誠 :ギリ籍入れる前だったからさ、お互い、バツはついてないし。
良平 :それにしても…、
誠 :お前は、どうなんだ、奥さんと
良平 :俺?俺はまあ、普通だよ…
誠 :普通って?
良平 :まぁ、普通に、仲いいよ。
誠 :そうなんだ。
良平 :うん・・・。
誠 :奥さん、オメデタなんだよな?
良平 :え、あぁ。
誠 :いいなぁ~順調な結婚生活に、子供も授かって、この、幸せものぉ~
良平 :そんな事ねぇよ(気まずい)
誠 :メシ、どうしてるんだ
良平 :メシ?嫁が作ってるけど
誠 :お前は、作らないのか
良平 :まぁ、たまには作るけど、
誠 :奥さん、つわりは、大丈夫なのか?
良平 :まあ、辛そうにしてるよ。
誠 :そんな嫁さんにメシ作らせて、お前は食べるだけか
良平 :だって俺いつも残業だから…あ、たまに皿洗ったりはしてるよ。
誠 :たまに?
良平 :まぁ
誠 :基本、家事は嫁さんか
良平 :まあな
誠 :だめだ
良平 :え?
誠 :足りてないよ
良平 :何が?
誠 :お前は、母性が足りてない。
良平 :母性・・・?
誠 :お前は女性の気持ちを理解してない。
良平 :すいません…。
誠 :お前は、妊娠中の女性の気持ち、想像した事あるか?
良平 :想像って、
誠 :つわりってどんなものなのか、おなかが大きくなっていくってどんな気持ちなのか、想像した事あるか?
良平 :いや…、
誠 :そんなお前に必要なのが
誠、かばんから“男水”と書かれたボトルを出す。
誠 :この水です。
良平 :なんだコレ・・・おとこ、みず?
誠 :なんすいだ。
良平 :なんすい??
誠 :男の水と書いて、なんすいだ。
良平 :これ…、
誠 :分かるぞ~~
良平 :はい?
誠 :これを飲むとな、分かるぞ。
良平 :何が?
誠 :女性の気持ちが
良平 :え?
誠 :これはな、ただの水ではない、アナンダ先生が祈祷した。ありがた~い水なのだ。
良平 :お前…
誠 :アナンダ先生はさ、俺の過ちを正してくださった、すばらしいお方なのだ。
良平 :ちょっと待て、
誠 :アナンダ先生が祈祷した水はな、女性ホルモンの動きが活性化されて、男性ホルモンを抑制する働きがあるんだ。男が飲むとどうなると思う?
良平 :お前さ、
誠 :女になるんだ
良平 :はあ?
誠 :これを飲むと、見た目、行動、趣味が女性化するんだ。すると恋愛対象も変わる。ノンケだった男も、男に興味を持つようになるんだ。
良平 :なに?
誠 :そして恋をする。恋をすれば、自然とその人の子供が欲しくなる。そして、想像で妊娠するんだ。
良平 :…
誠 :これは、想像妊娠できる水なんだ。
ウエイトレス:あの、やっぱりお一人さま1品ご注文を
良平 :えっと、ちょっと待ってください
ウエイトレス:(ムスッ)はい。
良平 :お前さ、本気でそんなこと信じてるのか?
誠 :今ならいちきゅっぱーだ。
良平 :いち…?
誠 :19万8千円。
良平 :じゅうきゅうまん!?
誠 :俺はこれを飲んでから女性化が進んで、見た目が女っぽくなった。
良平 :どこが?
誠 :体が丸みを帯びてきてさ、
良平 :中年太りだろ
誠 :胸も大きくなったし
良平 :だから中年太り
誠 :カモミールティなんて頼むようになって、気分はオンナノコさ。
誠、小指を立てて、カモミールティをすする
誠 :もう、女に興味もなくなってきた。
良平 :えっ
誠 :(良平をじーっと見つめて)お前、かっこよくなったな・・・
良平 :やめろ
誠 :どうだ、お前も飲んでみないか?奥さんの気持ちがわかるぞ。
良平 :いやだ
誠 :初回は2割引きだ。
良平 :あのなぁ、気のせいだよ、お前は女性化なんてしてない、全部思い込みだよ。お前は結婚破談になって、弱っているところを、アナンダ先生?はつけ込んだんだ。それは洗脳だよ。目を覚ませって!
隣の女性が振り向いて、
樹 :ちょっとあんた
良平 :え?
樹 :さっきからずいぶんな言いようじゃない
良平 :え?
樹 :アンタにアナンダ先生の何が分かるの
良平 :おとこ?!
誠 :樹さんだ。俺をアナンダ先生に紹介してくれた恩人だ。
樹 :初めまして。
良平 :こいつか、お前をおかしくしたのは。
誠 :こらこら、口の利き方に気を付けな。この人はうちの会のカリスマ的存在だぞ。
樹 :カリスマだなんて、もお。ただ他の人より長く男水を飲み続けているだけよ。今では身も心も女になりきってしまったわ。
良平 :ただの女装だよ!
誠 :樹さんは今、想像妊娠中なんだ。気を付けてくれたまえ。
良平 :はぁ?
樹 :すっぱいものが食べたいわ。
ウエイトレス:ご注文は決まりましたか?
良平 :今それどころじゃないんだよ!
ウエイトレス:(男水を見つけて)持ち込みは困ります!
良平 :持ってってくれ、そんな水!
ウエイトレス、男水を回収して退場
樹 :あんたね、このままだと地獄いきよ。私には見える。嫁の怨念が、あなたにまとわりついてるわ!
良平 :いい加減にしてくれ!
樹 :今なら間に合うわ、さぁ19万。
良平 :警察呼びますよ。
樹 :歴史的に見ても、女性は虐げられてきたわ。今でこそ女性の社会進出が当たり前になってるけど、それでも家事は女がやるものだって考え方が未だにある。そのせいで、女性たちは妊娠していても、仕事と家事を両立しなければいけない。そして、出産したら今度は、仕事、家事、育児すべてこなして、それでも世間は女なら、当たり前だって目で見る!この辛さ、男に分かる?
良平 :いや、
樹 :アナンダ先生はね、女性を救うために立ち上がったの、男水の力で、この世の不平等を断ち切る!
良平 :いい事言ってる風だけど、要は金儲けだろ。
樹 :わからない人ね。水を飲まないなら、これでも着なさいな。
良平 :なんだこれは?
樹 :妊娠スーツよ。これを着て、妊婦の気持ちを知りなさい。
良平 :なんでだよ。おい!やめろ、おい、…力強いな、あんた…
樹、良平に妊娠スーツを着用させる。
良平 :くそ、重い
樹 :妊娠スーツは総重量15キロ。さぁっこれで、ぞうきんがけでもしなさい・・・ちょっとーウエイトレスさーん、ぞうきん持ってきてー
ウエイトレス:はい、どうぞ。
良平 :この店は客に雑巾がけさせるのか!
ウエイトレス:助かりますう
樹 :あんたたち男は、はるか昔から女性にこんな苦行を強いてきた。妊娠は病気じゃない、少しは動いた方がいい、そんな言葉で、女性たちを傷つけてきた!
良平 :くく(苦しそうに)
樹 :さあ次はスクワット!からのうさぎ跳びよ!そして空気いす!さぁ妊婦の気持ちを理解なさ~い
良平 :妊婦はこんなことしないだろ!!
良平、妊娠スーツをたたきつける。
樹&誠:あーあ
良平 :(息切れしながら)もう、付き合いきれるか!
ウエイトレス:ありがとうございます、お水どうぞ。
良平、コップの水を飲み干す。
ウエイトレスの手には男水のボトル。
良平:おい、これ
にやりと笑う3人。
暗転
終わり