あとがき~アポロンはやさしく歌う
ギリシャ神話シリーズ第2弾、「ヘルメスは私にだけ見える」の続きの話。
蕗子に言い寄ってきた男は、演劇やってるに違いない。そう思って、演劇サークルの部室を舞台に書いてみました。
ヘルメス~では人間関係のいや~な部分を出してしまった分、こちらでは充実した学生生活を送ってきた二人を出しました。
でも学生生活って、リミットがあるから儚いものですよね。どんなに充実していようが、必ず終わりがくる。この作品ではそういう儚さを出せたらいいなと思って書きました。
キャラクター達について
●川瀬編
川瀬は浪人して大学に入ってるから、4年だけど数えで23歳。新卒の原とタメっていう。こいつらと蕗子の通っている大学はレベルの高いところです。
本当は川瀬の就活の話も書きたかったけど、くどくなったので省きました。彼はジャーナリスト志望で、世の中の矛盾や不正を正していきたいと思っている、熱い男です。
サークルの部長を任されるくらいなので人望もあります。
彼だったら、蕗子を幸せにできるんじゃないですかね。
川瀬の脚色を加えた台本「アポロンの初恋」は、彼の願望を込められた作品でもあります。
蕗子から返信がなく、落ち込む川瀬は、冒頭でやけっぱちで熱唱していますが、台本読みでの彼は優しく歌っています。
木になったダフネーに対して世話をして、言葉を投げかけても、何の反応もありません、それでも優しく歌っている、そんな無償の愛のような、そういう領域に行きたいと、川瀬は願っているのです。
書いているだけでは、変化はないけど、台本読みをする事で、無償の愛に近づけたのではないでしょうか。
だから、そのタイミングで返信が来たんですね。
●原編
この作品って、原が主人公なんじゃないか。最初は川瀬が主人公のつもりで書いてましたが、完成した今となってはそう思えるのです。
その理由としては、原の最後のセリフ「さよなら」に込められた思いがあります。
あの「さよなら」には川瀬に対してだけじゃなく、「大学で青春していた自分」に対しても言っているのです。
この作品での原の現状は、図書司書になったが、仕事に慣れておらず、卒業したのに演劇サークルが恋しくてちょくちょく顔を出していると、おまけに川瀬にも未練たらたら、社会人になったのに、学生時代にすがりついている状態だったのです。
でも川瀬に好きな子がいる事を知り、同時に悟ったのです。「ここは私のいるべき場所じゃない」と。
失恋の悲しみと引き換えに、本当の意味での卒業をする決心がついたのです。
あの「さよなら」にはそれだけの思いが込められています。
テーマである、学生生活の儚さって、卒業した原が一番理解できているんじゃないか・・・そしてそれを体現した原は、この作品の主人公に相応しいのかもしれない、そう思うのです。
以上、あとがきでした。最後まで読んでくれてありがとうございました。