ヘルメスは私にだけ見える
★ギリシャ神話シリーズ 第1弾
★3人
★15分くらい
★あらすじ:大学生の蕗子は友達はおらず、おしゃれにも関心せず、弟にばかにされている、そんな彼女には普通ではない友達がいて・・・
【登場人物】
蕗子(ふきこ) 大学生
ヘルメス ギリシャ神話の登場人物
奏芽(かなめ) 蕗子の弟、高校生、老け顔
本編スタート
平日の17時頃、蕗子の部屋。舞台袖から奏芽の声がする。
奏芽 :フキコーーフキコーーー・・・
奏芽登場
奏芽 :あれ、まだ帰ってねえのか・・・ま、いいや。(本棚を物色する。)えーと辞書辞書・・・うわ、つまんなそうな本ばっかり(本棚から一冊抜き取る)ギリシャ神話・・・?
奏芽、本をパラパラめくり、にやにやする。本をテーブルに置く。
また本棚の物色をし始める
奏芽 :エジプトの神々・・・?
奏芽、本を読み始めると、クスクス笑い出す。そこに蕗子登場
蕗子 :ちょっと、カナメ。
奏芽 :あ、お帰り
蕗子 :何勝手に入ってんの?
奏芽 :いや、辞書借りたくてさ
蕗子、テーブルの本に気づく
蕗子 : やだ!この本は触らないでよ!
奏芽、本を見て笑う。
蕗子 :何で笑ってるの?
奏芽 :いや、このメジェドってウケるんだけど。
蕗子 :ちょっと馬鹿にしてるの!
奏芽 :ごめん(笑)
蕗子 :(通学かばんから辞書を取り出す)ほら(辞書を差し出す)!もう部屋に入らないで!
奏芽、蕗子をまじまじと見る。
蕗子 :・・・何?
奏芽 :そのカッコで大学行ってるの?
蕗子 :そうだけど・・・?
奏芽 :もっとおしゃれすれば?
蕗子 :いいよ、服なんてキョーミないし。
奏芽 :今、夏物のバーゲンやってるし、ショップのクーポンのURL送るからさ、それで買えば?
蕗子 :だから、いいってば。
奏芽 :あのさぁ、俺の立場を考えろよ、ダサい姉ちゃんがいるって、最悪。
蕗子 :うっさいな、あんたこそ、人の事言えるわけ?冗談は顔だけにして。
奏芽 :俺は自覚していますよ。自分はせいぜい20点、30点の人間だって、だから服装や身なりで点数稼いで、平均点はキープさせてもらってます~~~。少なからず(蕗子を指さしながら)20点の顔で、0点のカッコしてる人には、言える立場です~。
蕗子 :(くっ・・・)
奏芽 :だからさ、そうゆう努力もしていこうよ。頑張って平均点くらいは取ろうよ
蕗子 :頑張って平均とったからって何だってのよ?
奏芽 :20点のヤツには、20点の扱いしか受けない、それが世間なの!
蕗子 :・・・何よ、えらそーに
奏芽 :頼むから、少しは変わってくれよ。見た目から変わっていけば、友達の一人くらいできるかもよ。
蕗子 :そんなの・・・いらないし。
奏芽 :そーでなくても、そんな子供っぽいカッコしてるせいで、いつも俺の妹と間違わられてるじゃん、頼むって~。
蕗子 :・・・老け顔
奏芽 :・・・20点
蕗子 :老け顔!!
奏芽 :20てーーーーーーーーーん!!!
蕗子、迫力に負ける。
奏芽 :(ドヤ顔)じゃ、辞書かりてくから、色々頑張れよ~、フキコ~。
蕗子 :呼び捨てやめろ!弟のくせに!
奏芽、退場。
蕗子 :・・・あっ~~~~!!(イライラ)
気持ちを静めるために、音楽をかける。
奏芽からひったっくった本を読みながら、空想する蕗子。
本棚の裏からヘルメス登場。
ヘルメス :ふ~きちゃん。
蕗子 :ヘルメス
ヘルメス :おかえりー
蕗子 :ただいま。
ヘルメス :今日遅かったじゃん。
蕗子 :帰りに本屋寄ってたから。
ヘルメス :大学どおだった?
蕗子 :相変わらずよ
ヘルメス :相変わらず?
蕗子 :つまんない。
ヘルメス :ええー?だめじゃん。せっかくのキャンパスライフだよ?
蕗子 :どうでもいいよ、大学は勉強をするところです。
ヘルメス :勉強ばっかりじゃ退屈しないの?
蕗子 :いいの、しっかり学んで、学芸員になるのが夢だから。大学に入ったのはその為。
ヘルメス :ああ、そうだったね。
蕗子 :ご心配なく、勉強は面白いよ。つまんないのは人間関係だけ。
ヘルメス :ふ~ん、でも大学にも学芸員になりたい人もいるんじゃない?そういう子とは話ないの?
蕗子 :いや、いないわ。
ヘルメス :なんで?
蕗子 :学芸員って狭き門だから、資格だけとるって人ばっかなの。
ヘルメス :そうなんだ。
蕗子 :私もね、お母さんに反対されてたんだ。学芸員になるの。でもお父さんがお母さんを説得してくれてね。
ヘルメス :へーお父さん理解ある。
蕗子 :うん、だから私、頑張んなきゃいけないの。
ヘルメス :ふきちゃんならなれるよ、本もたくさん読んでるし。
蕗子 :弟には馬鹿にされるけどね。つまんなそうな本だって。
ヘルメス :ああ、あいつ漫画しか読まないから。
蕗子 :図書館館長の息子のくせにね。
ヘルメス :ふきちゃんの本、つまんなくないよ。このあいだ読んだペルセウスのメデゥーサ退治の話、面白かったもん。
蕗子 :それ、自分が出てるからでしょ(笑)
ヘルメス :ペルセウスよ!本当に行くのか・・・!?
蕗子 :あぁ、ヘルメス。王の命令だからね。
ヘルメス :ならばこれを(投げるジェスチャー)
蕗子 :(掴むジェスチャー)これは、翼の靴!
ヘルメス :きっと君を助けるだろう
蕗子 :ありがとうヘルメス
ヘルメス :(声色変えて)ペルセウス・・・!
蕗子 :メデゥーサ!
ヘルメス :私を倒せるかな!?
蕗子 :直接見たら石にされる!アテネに貰った盾!(盾に隠れるジェスチャー)
ヘルメス :あっ何か眠くなってきた。グーグー・・・。
蕗子 :その隙に首ばっさり
ヘルメス :ぐえー、やられた~~
蕗子 :あははー!
奏芽 :(袖から)フキコーーーーーーーー!!!!
蕗子、驚いて本を閉じる、と同時にヘルメス退場
奏芽 :一人で何騒いでいるんだ!不気味だからやめろ!!
奏芽の言葉に我に返る蕗子、乱暴に音楽を消す。
誰もいない部屋で、いらいらしたり、そわそわしたり、落ち着かない様子。
後ろめたさを感じながらも、本を開き、空想を始める。そこでヘルメス登場
ヘルメス :また、落ち込んでるの?
蕗子 :・・・なぁに、そんなんじゃないから。
ヘルメス :目が赤いよ。
蕗子 :あ・・・大丈夫、気にしないで。
ヘルメス :誰かにいじわるされた?
蕗子 :ううん、奏芽がさ、また文句言ってきただけ。
ヘルメス :あぁ~何だ。あんなやつほっとこ。
蕗子 :そだね。
ヘルメス :(奏芽に向かって)ばーか
蕗子 :ばーか
ヘルメス、蕗子笑いあう。
蕗子の携帯のメール着信音が鳴る
蕗子 :うおわぁっ!!
ヘルメス :そんなに驚かなくても
蕗子 :めったに鳴らないから・・・(ケータイを見る)あ~、またこいつからだ・・・あれ、日付が昨日だ、今届いたのに。もう買い替え時かな。
ヘルメス :何?誰から?
蕗子 :大学の先輩、演劇サークルの部長らしいけど。
ヘルメス :え!男の子?
蕗子 :うん
ヘルメス :やるぅ~。
蕗子 :そういうのじゃないから。
ヘルメス :美男子?
蕗子 :ん~分かんないけど・・・ちょっと変・・・。
ヘルメス :何が?
蕗子 :何かね、大学の図書室でよく会うんだけど、いつも変な格好してるんだよね。・・・高校のクラスTシャツとか着てるの。
ヘルメス :それは変だね。
蕗子 :そいつ、会う度に話しかけてくるの。こっちは本読んでるのに・・・。
ヘルメス :ふむふむ
蕗子 :演劇の脚本書いてるだかで、今度、ギリシャ神話をテーマにした作品を書きたいから、何か資料になりそうな本教えてくださいって言ってきて、私が本選んであげたら、2日後には読みましたって、聞いてもいないのに、感想聞かせてくるし、馴れ馴れしい。
ヘルメス :ふむふむ
蕗子 :連絡先教えたら、教えたで、好きな音楽は?とかサークルはもう入りました?とか、質問攻め。
ヘルメス :その子ふきちゃんの事好きなんじゃない。
蕗子 :まさか
ヘルメス :お友達になったら?
蕗子 :・・・ん~、いいよ。
ヘルメス :つまんない大学生活が楽しくなるかもよ。
蕗子 :・・・そっかな。
ヘルメス :まぁ、メール見たら?
蕗子 :あ~(メール読む)
ヘルメス :なんて書いてた?
蕗子 :・・・学校祭、一緒に回る人、いますか?だって。
ヘルメス :おぉ、学校祭っていつだっけ
蕗子 :1週間後、ぐらい。
ヘルメス :で、どうするの?
蕗子 :こんなのほっとくよ。
ヘルメス :えぇー何で?返信しないの?
蕗子 :うん。
ヘルメス :ダメだって、なんでそんな意地悪するの。
蕗子 :学祭なんて一人でもいいし
ヘルメス :それ本気?
蕗子 :うん
ヘルメス :嘘だよ、本当は寂しいんじゃないの?
蕗子 :そんな訳ないでしょ。
ヘルメス :かっこつけてるだけなんだよ、ふきちゃんは
蕗子 :何それ
ヘルメス :一人の方がいいってスタンスに見せてるけど、本当は違うでしょ?
蕗子 :違わないけど
ヘルメス :一人だと寂しいけど、傷つくこともないもんね。結局さ、誰かと関わるのが、怖いんでしょ?ふきちゃん。
蕗子 :はぁ!?意味分かんない!何なの?さっきから!
ヘルメス :ふきちゃ・・・
蕗子 :もういいよ!
蕗子、ヘルメスからそっぽ向く
ヘルメス :・・・うん、ごめん言い過ぎた。
蕗子 :・・・
ヘルメス :ごめんって
蕗子 :・・・
ヘルメス :・・・あーそうだ、あの話聞きたいな、学芸会の話
蕗子 :学芸会?
ヘルメス :ホラ、担任の先生に頼まれて、脚本書いたんでしょ?
蕗子 :あー、うん
ヘルメス :すごいよね、小学生なのに
蕗子 :まぁ、完全にオリジナルは無理だから、トロイの木馬をアレンジしたやつだったけど
ヘルメス :本番でも好評だったんでしょ?
蕗子 :うん、知らない大人たちが褒めてくれたよ。
ヘルメス :やっぱふきちゃんは天才だね。
蕗子 :いや・・・まぁ、あの頃はそんな事ちょくちょく言われてたね。小学時代はよかったな、学校が楽しかったし、友達もけっこういたんだよ。
ヘルメス :そうなんだ、中学は?
蕗子 :・・・え。
ヘルメス :ふきちゃんの中学時代の話、聞いた事なかったから、どうだったの?
蕗子 :中学は、思い出したくない。
ヘルメス :それは、なぜ?
蕗子 :中学からは、ずっと孤立してたから。
ヘルメス :どうして孤立してたの?
蕗子 :私、小学校ですっかり調子に乗ってたから、何か・・・態度に出ちゃってたのかな?「上から目線だ」って。リーダー格の子に嫌われちゃって。その瞬間から、クラスの仲間はずれ
ヘルメス :それだけで?
蕗子 :中学生なんてそんなもんよ。
ヘルメス :怖いなぁ、そんな理由で仲間はずれか。
蕗子 :ホント、中学時代は苦労したなー。連絡網は回ってこないし、私だけとばして次の子に回すの、美術で彫刻刀使うから持って来いって連絡も、私だけ回ってこなくて、先生に話しても信じてもらえなかった。皆持ってきてるんだから、あなただけ持ってこないのもおかしいでしょ。忘れたなら素直にそう言いなさいって、怒られちゃった。
ヘルメス :・・・それが、中学時代。高校は?
蕗子 :一緒よ、高校も。
ヘルメス :ずっと一人だった?
蕗子 :・・・1年生の時、一人だけ、私に近づいてきた奴はいた。アドレス交換とかして、一緒に帰ったり、お弁当食べたりしたけど、私は違和感を感じてた。
ヘルメス :どうして?
蕗子 :私の話を聞きたがるの、根ほり葉ほり。でも結局その子は、情報収集のために近づいてただけだったの。
ヘルメス :どういう事?
蕗子 :私の情報を集めて話のネタにするつもりだったの
ヘルメス :何でふきちゃんをネタにするのさ
蕗子 :私ってクラスに馴染んでなかったから、謎な存在だったと思う、私の話をすれば、クラスメートの関心を集められるし、そのためにネタにしてたの。
ヘルメス :どうしてそれに気づいたの?
蕗子 :トイレで私の陰口たたいているのを聞いちゃったんだ。そいつ嘘も交えて大げさに話てたよ。
ヘルメス :・・・それが、高校時代。
蕗子 :そう・・・
ヘルメス :そして今、大学生。君は、さっき大学がつまらないと言っていたね。
蕗子 :うん。
ヘルメス :どう?このままで、楽しい思い出、出来そう?
蕗子 :・・・出来ない、だろうね。
ヘルメス :それで、後悔しない?
蕗子 :後悔・・・するかもね。
ヘルメス :だったら、メール返信したほうがいいんじゃない?
蕗子、携帯を手に取ろうとするが、ためらってしまう。
ヘルメス :ふきちゃん・・・。
蕗子 :やっぱりいいよ。
ヘルメス :どうして。
蕗子 :私と友達になりたいやつなんていないよ。
ヘルメス :そんな事言わないで。
蕗子 :どーせこの人も、中学高校のやつらと一緒だよ。
ヘルメス :そんなの分からないだろ!
蕗子 :あんただって分からないでしょ!人が何考えてるかなんて、この人だって、陰で私の事馬鹿にしているかもしれない!もしそうだったらどうするのよ!私、どうしたらいいの!!
ヘルメス :だったらそんなヤツぶっ飛ばしてやれよ!!
蕗子 :えっ。
ヘルメス :陰で馬鹿にするとか、そんなヤツならぶっ飛ばしてやればいいだろ!・・・何なんだよ、分かりもしない事、勝手に決めつけて・・・くだらねぇヤツなら、ぶっ飛ばしてやればいい!それだけの事なのに、何をそんなに怖がってるんだよ!
蕗子 :だって、今までたくさん傷ついてきたんだよ・・・怖いに決まってるじゃん。
ヘルメス :それが何だよ?連絡網飛ばして回されたとか、話のネタにされたとか、そんなもんでいつまでもウジウジしてんじゃねーよ!だったらあの時言ってやればよかったんだよ!ばかやろー!って、ふざけんな!ってあいつらに言えばよかったんだよ!!
蕗子 :・・・。
ヘルメス :言えよ!
蕗子 :えっ
ヘルメス :今からでも言えよ!ばかやろー!って、ほら言えよ!
蕗子 :・・・ばかやろ
ヘルメス :ばかやろー!
蕗子 :・・・ばかやろーー!!
ヘルメス :仲間はずれにしやがって!ふざけんなっ!
蕗子 :ふざけんなっ!
ヘルメス :連絡網ぐらい回せ!この人でなし!
蕗子 :人でなし!
ヘルメス :おめーら、やってる事が、くだらねぇよ!
蕗子 :くっだらねぇんだよ!!
奏芽 :うるせーーーーーーーーーーー!!!!!!
蕗子&ヘルメス:!!
蕗子とヘルメス、我に返り、お互い目が合う。
と、同時に笑いがこみ上げてくる。
蕗子&ヘルメス:アハハハハ!!
蕗子 :ははは・・・何なのこれ!
ヘルメス :ほんとだね(笑)、何やってんだろ。
蕗子&ヘルメス:アハハハっ!
蕗子 :はーアホらし・・・でも、何か元気でた。
ヘルメス :なら、良かった。
蕗子 :・・・私、電話する。
ヘルメス :おぉ!?
蕗子 :メールじゃなくて、電話して確かめるんだ。こいつがどんなヤツか。
ヘルメス :・・・うん、いいんじゃない。
蕗子、ケータイを手に取る
蕗子 :くだらねぇやつなら、ぶっとばす!
ヘルメス :その意気だ!
緊張の面持ちで、電話をかける蕗子
ヘルメス :(口パクで)ふぁいと
蕗子 :・・・・・・あっ、あの、今いいですか?ちょっと気になる事があって、あの・・・最近よく話しかけられるし、何なのかなーと思って・・・いや、謝ってほしい訳じゃなくて・・・別に、迷惑じゃないし・・・その・・・さっきのメールも、説明不足だし・・・え?・・・いませんよ。一緒に回る人なんて・・・は!?・・・学祭一緒に回りたいって・・・なんで!?
ヘルメス :(口パク)おっけーおっけー!!
蕗子 :だめ・・・
ヘルメス :(;゚Д゚)!!
蕗子 :・・・じゃないけど
ヘルメス :(*^▽^*)
蕗子 :あの!映研の映画は観たいから、10時にまで来てくださいよ、じゃ!
蕗子、電話を切る。
ヘルメス :やったーーーふきちゃん、おめでとう!これで学校祭楽しめるね!よかったよかった、僕も安心だよ。
蕗子、さっきの電話の衝撃が抜けておらず、固まる。
もう、ヘルメスの事は、見えていないようだ。
ヘルメス :・・・?ふきちゃん?おーい・・・
蕗子、自分の服を気にし始める。
蕗子 :服・・・買わなきゃ・・・!
鞄から財布を取り出し、中身の確認し、頭を抱える。
ヘルメス :ふきちゃん・・・。
蕗子 :カナメー!
ヘルメスの声も聞こえていない蕗子。そのまま退場。
そんな蕗子を、ほほえみながら見つめるヘルメス、その笑顔は、嬉しそうだが、
寂しそうでもある。
そして、テーブルの本を閉じる。
ヘルメス :さよなら
ヘルメス、退場。
暗転。