どんぐりにも神話はある

★ギリシャ神話シリーズ 第3弾

★7人

★17分くらい

★あらすじ:図書司書の君﨑は休憩中、館長ととりとめのないお喋りをしていたが、館長の意外な過去を聞いて・・・

【登場人物】

館長・・・図書館館長、蕗子のお父さん

君崎・・・図書司書、女、原の先輩

近所の子供たち

栄太・・・元気坊主

凛子・・・しっかり者、一馬の姉 

日奈・・・真面目 

由美・・・唯一の彼氏持ち 

一馬・・・引っ込み思案、凛子の弟 

本編スタート

図書館の絵本読み聞かせコーナーにて君崎が絵本の朗読をしている。

子供たちは君崎の前で、三角座りで朗読を聞いている。

君﨑 :ポセイドンの恋物語『ギリシャ神話には、ポセイドンという神様がいます。彼は海と地震の神様であり、とてもやんちゃな性格をしていました。

   :そんな彼も、一人の女神に恋をする事がありました。女神の名前はアンフィトリテといい、海辺で踊る彼女を見たポセイドンは一目ぼれをしました。その日から、ポセイドンはアンフィトリテへ熱心な求婚をしました。

   :「美しいアンフィトリテよ、私の妃になってくれないか」「ポセイドン様、お戯れはやめてください。私とあなたでは身分が違いすぎます。」ポセイドンの心からの求婚でしたが、アンフィトリテはそれを受け入れませんでした。やんちゃなポセイドンは野蛮だの、浮気性だのと噂があったので、アンフィトリテはポセイドンを良く思っていませんでした。

   :それからポセイドンは、アンフィトリテに真珠やサンゴ礁などの贈り物をしましたが、やはり求婚を受け入れてはくれませんでした。そんなある日、三角形の背びれを持つ大きい魚のようなものが、アンフィトリテを訪ねてきました。アンフィトリテは見た事のない魚に興味津々です。

   :「あなたは、一体、何者?」魚は言います。「私はいるかと言うものです。」このいるかは、アンフィトリテの贈り物として、ポセイドンが作ったものでした。「今日はアンフィトリテ様を楽しませるために、私はやってきました。それでは私めの踊りを見てくださいませ。」

   :そう言うといるかはとても剽軽に踊り、その踊りはアンフィトリテを虜にしました。「まぁ、なんて面白いの。あなたは素敵だわ。」

   :「気に入っていただければ光栄です。私はポセイドン様の城にいます。アンフィトリテ様がポセイドン様のお妃になれば、私はいつでもアンフィトリテ様の為に踊って差し上げる事ができます。」

   :このいるかの踊りは魅力的でしたが、ポセイドンの妃になるにはどうしても気が乗りません。それを察して、いるかはこう続けます。

   :「ポセイドン様は、貴方を一途に想っております。妃になれば、一生大事にしてくださりますでしょう。」

   :可愛らしいいるかの説得にほだされたアンフィトリテは、ポセイドンの妃になる決心をしました。そしてポセイドンはアンフィトリテを城に迎え、二人はいつまでも幸せに暮らしました。

   :アンフィトリテの説得に成功したいるかは、功績を讃えられ、空に輝くいるか座に変えられました。星となったいるかは天空から二人の幸せを、見守り続けたと言われています』・・・おしまい・・・どうだった?

栄太 :よく分かんねー!!

君崎 :えぇ~、分かんなかった?

栄太 :うん、何でイルカが喋ってんの?

君崎 :・・・何でだろね~~

他の子どもたちもあくびしたり、伸びをしたり、退屈そうな様子

由美 :あ、ごっめ~ん、約束の時間だから帰るね。

凛子 :ヒロくん?

由美 :うん、付き合って3か月記念なんだ。

君崎 :は?

由美 :じゃーねー

由美 退場

子供ら:じゃーねー

日奈 :はぁーあ、あたし達も早く彼氏作らないとね。

凛子 :ねー

君崎 :いいよ、作らなくて

日奈 :あ、あたし門限だから帰るね、じゃーねー

日奈 退場

子供ら:じゃーねー

凛子 :じゃ、帰ろっか一馬

栄太 :あ、そだ。俺さっきどんぐり拾ってきたんだ、あげる。

君崎 :わー、いいの?

凛子 :あんたまだどんぐりなんて拾ってるの?

栄太 :・・・。

君崎 :あら、いいじゃない。図書館の裏のどんぐり拾ってきたの?

栄太 :うん

君崎 :(どんぐり受け取り)ありがとー。

栄太 :大事にしろよ、じゃバイバイ

栄太 退場

君崎 :バイバイ

凛子 :一馬、おねーさんにバイバイは?

一馬、恥ずかしがり、凛子の後ろに隠れる

凛子 :もー挨拶ぐらいできないとー

君崎 :アハハ、いいのいいの。

凛子 :・・・じゃ、バイバイ

凛子、一馬退場

君崎 :バイバーイ・・・(どんぐりを見て)もうそんな季節か。

暗転

図書館の休憩室、本を見ている館長

君崎 :朗読、終わりました。

館長 :ご苦労さん、どうだった、反応。

君崎 :いまいちでした。

館長 :そっか(笑)

君崎 :今日、比較的大きい子供たちが集まってたんで、ポセイドンの恋物語を読んだんですが、あまりお気に召さなかったようで。

館長 :ま、そんな日もあるさ。

君崎 :そーですね・・・

利用者が使うしおりを作る君崎

館長 :休憩中なのに働くねー。

君崎 :え、しおり作ってるだけですよ。

館長 :まぁまぁ、休憩中くらい手を休めないと。何枚作ればいいの?

君崎 :50枚くらいですかね。

館長 :じゃ、後で、皆で手分けしてやろう、一人でやるより早いから。

君崎 :え、いいのに

館長 :いいから、ちゃんと休みなさい。

君崎 :ありがとうございます。

館長 :君崎くんは、気が利くし、よく動いてくれるから助かっているよ。

君崎 :そんな事ないです・・・。

館長 :新人の指導も率先してやってくれるし、君崎くんがびしっと指導してくれるお陰で原くんも大分出来るようになったよ。ありがとう。

君崎 :え、あたし、びしっと、指導してます?

館長 :うん、前に原くんに言ってたじゃない、人を頼る前に自分の頭で考えなさいって

君崎 :えー聞いてたんですか?何か恥ずかしい。

館長 :いやいいんだよ、どんどん指導してよ。

君崎 :まーあたしも新人の頃、似たような事先輩に言われたんですけどね・・・館長の目から見ても、原さんて成長しました?

館長 :うん、入りたての頃は利用者さんへの言葉遣いとか、見てて冷や冷やしてたけど。

君﨑 :あーあの頃よりだいぶ良くなりましたよね。

館長 :そーだね、ちょっと前までクレーム対応とか、逃げ腰でさ、原君に頼り切りだったのにね。

君﨑 :あーそういやそうでしたね。

館長 :今は堂々と対応できてるもんね。

君﨑 :本当に、社会人らしくなりましたね。

館長 :うん・・・でも原くんてさ、ある日、急に仕事張り切り出したよね。

君﨑 :あ、それ私も思いました。夏前くらいですよね、急にやる気スイッチ入った瞬間があって・・・。

館長 :そうそう。

君﨑 :それくらいからいきなり成長したんですよね。

館長 :何かあったのかな、髪もばっさり切ったし、失恋でもしたのかね(笑)

君崎、館長:ははははは~~

館長、本をめくって、中身のチェックをしている

君崎 :あ、だめですよ。休憩中に働いたら

館長 :ん、これは違う。家にあったやつ見てるだけ。

君崎 :何の本です?

館長 :ギリシャ神話

君崎 :あら、そっちもですか。

館長 :うん、これさ、俺が昔買った本だったけど、ここ何年か見かけなかったのよ。そしたら昨日カミさんが本の整理してて、その中にあったのよ、これ。

   :どうやら娘が勝手に持ち出して、ずっと自分の部屋置いておいたらしいんだけど、もういらなくなったから処分していいよーってカミさんに託したんだって。いやちょっと待て、それはオトンのだぞって、奪い返してやった。

君崎 :娘さん、蕗子ちゃんでしたっけ。

館長 :そうそう

君﨑 :もう高校生くらい・・・?

館長 :いや大学生

君崎 :もうそんなに、早いなー、私蕗子ちゃんの学芸会、昨日のように思い出せますよ。

館長 :あー小学校の時の。

君崎 :あの時、館長、娘が脚本書いたから皆で観に行くぞって、私らの事半ば強引に小学校まで連れ出しましたよね(笑)

館長 :今だったらパワハラだね、ごめん。

君崎 :いや、全然。蕗子ちゃんの脚本、面白かったですよ。トロイの木馬をあんなアレンジするなんて、すごいですね。

館長 :楽しんでもらえたらよかった。

君崎 :蕗子ちゃん。いずれ脚本家になれそう。

館長 :まー本人は学芸員になるつもりだけどね。

君崎 :学芸員・・・ってそりゃ、図書司書に負けず劣らずの狭き門を選びましたね。

館長 :そうなんだよ、ま、母親は反対してたよ。学芸員は就職難しいし、なったらなったで苦労するし・・・でも、やるだけやってみろってスタンスで、見守ってやることにしたのさ。

君﨑 :・・・なれるといいですね。

館長 :うん・・・あーだめだこりゃ。

君崎 :え

館長 :この本、保存状態良いから寄贈図書にしようと思ってたけど、ここ、ヘルメス神のところにアンダーライン引いてる。

君崎 :あ~・・・好きだったんですかね、ヘルメス

館長 :線引くくらいだからよっぽどだね。このページだけよく読み込んであるし。でももう必要なくなったんだな。あいつには。

館長、本を隅に寄せる

君崎 :蕗子ちゃんて、お兄さんもいましたよね。

館長 :ん?いや。

君﨑 :あれ?

館長 :あー蕗子、子供っぽいからよく間違えられるけど、あれ弟なんだ。

君﨑 :あーそうでしたか。

館長 :ま、弟が老け顔なんだけどね。でもね、蕗子最近イメチェンしてね、大人っぽくなったんだよ。

君﨑 :へー

館長 :ついこの間まで本が友達、みたいな地味な子だったのに、おしゃれに目覚めてね。

君﨑 :へー大学デビュー

館長 :あの子さ、中学高校、人間関係で苦労してたけど、大学で友達できたらしくてさ、毎日楽しそうだよ。

君﨑 :それはよかった。

館長 :土日は家にこもって本ばっかり読んでたのに、最近じゃ、おしゃれして出かけるようになったよ、友達と。

君﨑 :いいじゃないですか。

館長 :・・・本当に、友達かな・・・?

君﨑 :・・・自分の娘を信じるしかないんじゃないですか?

館長 :だーよーねー・・・ハハハ~・・・ま、仕方ないか、あいつも来年成人だし、早いなぁ。

君﨑 :今はどんぐり拾ってる子供も、あっという間に大人になるんでしょうね。

君﨑、どんぐりを出す

館長 :どしたの、それ

君﨑 :本読みに来た男の子がくれたんです。ここの裏のどんぐり拾ってきたみたいで。

館長 :へー、俺もガキの頃拾ったな。小2の時だったかな、拾ったどんぐり箱に入れて、しばらく放置した事あってさ、そんで、久しぶりに箱開けたら、白い、うじ虫みたいな幼虫が、うじゃうじゃうじゃ~~って、大量にいた(笑)

君﨑 :うわっ

館長 :あの時は、太陽系に轟くくらいの悲鳴をあげたよね。おふくろに見つかって滅茶苦茶怒られるし、もーさんざん。

君﨑 :どんぐり、湯通ししなきゃだめなんですよ。

館長 :あーらしいね。でも小2男子がそんな事知ってる訳ないよ。拾ってきて、箱につめたら、あとは放置プレイさ。

君﨑 :どんぐりの幼虫・・・あれ、何なんでしょうね。

館長 :あれね、どんぐり虫っていってね、土とか用意してやると、羽化して蛾になるんだよ。

君﨑 :えっ(どんぐりから手を離す)聞きたくなかった。

館長 :あー虫嫌いな人?

君﨑 :はい・・・。

館長 :へーそう。

館長、お茶を入れに席を立つ

館長 :そのどんぐりに幼虫わかせて土に入れて、蛾になるまで、ここで育ててみよっか☆

君﨑 :やめてください!

館長 :冗談冗談~、はっはっは~~~。

館長、席を外す

館長 :(舞台袖から)この~木何の木、気になる木~♪

君﨑 :気になる木~♪(コーラス)

ひととおり歌った後、館長、戻る

館長 :はい、お茶。

君﨑 :どうも

館長 :は~どんぐりか、子供時代を思い出すな。俺、母子家庭だったんだよね。

君﨑 :あー(聞いたことある)

館長 :おふくろは遅くまで仕事してるから、鍵っ子だったの。だから学校終わって、友達と遊んでも、皆5時に帰っちゃうんだ。でも俺は家帰っても誰もいないし、すぐ帰りたくなくて、時間潰すのにどんぐり拾ってたんだ。

君﨑 :そうだったんですね・・・。

館長 :あはは、いや、しんみりさせるつもりじゃなくて・・・全然寂しくないのよ。だって、どんぐり拾ってる子供の元には、女神が現れて、金色のどんぐりを実らせるんだから。

君﨑 :ふ~ん?絵本ですか?

館長 :いや、体験談。

君﨑 :は?

館長 :君﨑くんは、不思議体験する人?

君﨑 :いや・・・。

館長 :俺はさ、そういうの見たり、不思議な体験する人なんだ。

君﨑 :女神・・・見たんですか?

館長 :そう、どんぐりを拾ってたらさ、木に腰かけてる不思議な女の人がいたのよ。何か、きらきら輝いていて、金色のオーラをまとってて、不思議な存在感があったな。

君﨑 :はぁ・・・。

館長 :友達と遊んでいる時も、どんぐりに腰かけている彼女をちょくちょく見かけててさ、でも友達には見えていないらしくて、だから、妖精とか女神とかそういう類のヤツだって分かったの。

君﨑 :ふんふん・・・。

館長 :でね、女神が腰かけてるどんぐりに、必ず金色のどんぐりが一個実ってるの。だからあの女神が実らせているものだと思ったの。

君﨑 :へぇ~・・・。

館長 :俺は、皆に見せたくて金色のどんぐりを持って帰るけど、家に着く頃には、普通の茶色いどんぐりに戻ってるの。あれは、不思議だったな~。

君﨑 :そのどんぐり、光の反射で金色に見えてたとかでは?

館長 :ううん、全然。明らかに金色だったよ。

君﨑 :でも・・・

館長 :でね、女神っていつでも現れる訳じゃないの、不意打ちで現れるから・・・あの頃は無駄にどんぐりを拾いに行ったな~箱いっぱいになるまで。そんで、どんぐり虫わかせちゃったんだけど。

君﨑 :あぁ・・・。

館長 :でもある時思ったの、金色のどんぐり拾って持って帰るからダメなんだって、枝を折って、枝に実っている状態で持って帰れば金色のままなんじゃないかって。そんで挿し木して、木が大きくなったら、家の庭にも女神が現れるかもしれないじゃない?

君﨑 :そーですね・・・。

館長 :だからさ、女神が現れたある日、金色のどんぐりの枝を折って、持って帰ったけど、やっぱり家に着く頃には、茶色いどんぐりに戻っているの、挿し木して無事に育って大きくなっても、金色のどんぐりは実ることもなくて、女神も現れる事もなかった。

君﨑 :そうですか・・・。

館長 :それっきり、俺は女神を見ていないんだ。どんぐり拾いに行っても、あれから何十回と秋が来ても、一度も現れない

君﨑 :はぁ・・・でも、どんぐりって挿し木してちゃんと育つんですね。

館長 :あぁ、ここの裏に生えているどんぐりあるでしょ?あれ、俺が挿し木したやつ。

君﨑 :あれそうなんですか!

館長 :そう、でかくなりすぎて庭が狭くなったから、植え替えたのさ・・・僕は、今でも待ってるんだけどね、彼女が現れるのを、ずっと。

君﨑 :う~ん・・・なるほど・・・うちの実家に温泉宿があるんですけど、すごくいいトコなんですよ、お湯の効能もたくさんあるし。

館長 :・・・?うん。

君﨑 :食事も美味しいし、景色もきれいで癒されますよ。

館長 :あ、そう。

君﨑 :だから、館長も、1週間くらい休みをとって、そういうところで羽を伸ばすのもいいんじゃないでしょうか?

館長 :・・・君﨑くん、俺別に病んでないよ。

君﨑 :いいんですよ、強がらなくても。

館長 :今の話・・・信じてないだろ。

君﨑 :はい、全く。

館長 :何でだよ!?

君﨑 :だって色々おかしいでしょ!

館長 :えー?どの辺が?

君﨑 :あの・・・例えばUFO見たとか、ちっちゃいおじさん見たとかならまだ分かるけど、女神って・・・ちょっとぶっとびすぎてません?

館長 :そーかもしれないけど、何でちっちゃいおじさんは信じて、女神は信じないのさ!?

君﨑 :それは・・・

館長 :おじさんより女神の方がいいでしょ?!

君﨑 :そーですけど、そーなんですけど・・・何か、今日の館長変ですもん。温泉宿勧めたくなりますよ。

館長 :・・・ま、いいさ、信じるも信じないも自由だし。さてさて、仕事に戻るかな~。

館長、退場。

君﨑 :あ~休憩終わる・・・休んだ気がしない。

一馬、登場

君﨑 :あれ!どうしたの?

一馬、何か言いたそうだが、もじもじして喋れない。

君﨑 :どうやって入ってきたのー?ここは、勝手に入ったらだめなんだよ。

一馬 :・・・さっきね。

君﨑 :うん?

一馬 :ここのどんぐり拾ってたの。

君﨑 :うん。

一馬 :そしたら、見つけたの、金色のやつ。

一馬、金色のどんぐりをポケットから出す。

一馬 :これ、あげる。

一馬から金色のどんぐりを受け取る君﨑。

君﨑 :あ・・・あ・・・あの、これ、どうして・・・

凛子 :一馬ーーどこいったのー!!

一馬、走って退場。

君﨑 :あ!待って!

君﨑 :金色の・・・どんぐり。うそ・・・本当に?あ、そうだ、館長・・・!

館長のもとへ行こうとする君﨑、が、一旦立ち止まる。

君﨑 :いや・・・んな訳ないっか。

君﨑、どんぐりをポケットにしまう。

君﨑 :おもちゃだなーきっと。

机の上を片付ける君﨑

君﨑 :さて、仕事仕事。

君﨑、退場。

君﨑 :原ちゃーーん、休憩代わってーー

暗転。

終わり

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